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治療について

姫野病院が行っている治療についてお教えします。

姫野病院の手術機器を教えてください。

  • 顕微鏡
    脳神経外科の手術は原則として顕微鏡を用いますが、脊椎脊髄の手術でも顕微鏡を用います。また脊髄手術では最高倍率まで術野を拡大することもあり、高性能なLeica(ライカ)社の手術顕微鏡を導入しています(Leica M530 OHX)。
  • 術中神経モニタリング装置
    全身麻酔下の神経機能を電気生理学的な手法で調べる装置で、当院ではMedtronic社のNIMを導入しています。この装置によりSEP、MEP、神経双極刺激などを行い高い安全性を実現します。
  • ドリル、SONOPET
    骨を削る際に使用する脊椎手術で必須の道具です。ドリルはStryker(ストライカー)社のドリルを使用しています。SONOPETは神経や血管などの組織を傷つけずに骨を削ることができる装置です。
手術室で顕微鏡をのぞく男性

脊椎と脊髄の手術について教えてください。

  • まず「脊椎」の手術ですが、手術の基本は除圧術です。すなわち加齢による変性などで脊髄や神経根を圧迫している骨や靱帯を取り除く(=除圧)ことで神経症状の改善を目指します。
  • すべり症などで脊椎に不安定性がある場合、必要があれば金属と骨移植で脊椎を固定する固定術を検討します。ただし固定術は侵襲度や合併症のリスクが高くなりますので、適応はしっかりと見極める必要があります。また高度の技術を要する場合は大学病院や脊椎脊髄外科のある総合病院へ適宜紹介します。
  • 「脊髄」の手術は脊椎の中にある脊髄が対象となり、脊椎の手術ほど多くはありません。手術対象としては難治性疼痛、痙縮、脊髄腫瘍脊髄空洞症、などが挙げられます。

頸椎の手術について教えてください。

  • 頸椎の手術は患者様の状態によって首の前から手術する「前方アプローチ」と首の後ろから手術する「後方アプローチ」に分かれます。当院では安全性の高い後方アプローチを主に用いています。
  • 当院の頚椎手術で最も多い「頚椎椎弓形成術」では狭くなっている部分の骨(椎弓)を両開きにしたうえで人工骨や金属プレートを留置します(下写真)。頸椎の変形(後弯変形)リスクがある場合はlateral mass screwなどの後方固定術を併用することもあります。手術時間は病変の範囲にもよりますが、概ね4~6時間程度です。
  • 原則として全例で術中神経モニタリングを行い、安全な手術を心掛けています。
頸椎のレントゲン写真

腰椎の手術について教えてください。

  • 当院の腰椎手術で最も多いのは椎弓形成術(図)です。侵襲度の少ないアプローチ(棘突起縦割によるCaspar法や修正MILD法)を用いており、1椎間の椎弓形成術の場合、皮膚切開は2.5cm~3cm程度で翌日より歩行可能です。3椎間などの椎弓形成術では短い手術時間できる棘突起横切法を用いています。下の写真はCaspar法による椎弓形成術の1例です。
  • 腰椎椎間板ヘルニアは膀胱直腸障害などの緊急性がない場合、まず保存的に様子をみるか、注射による治療法(ヘルニコア)を検討します。手術はLove法と呼ばれる低侵襲の術式でCaspar法を組み合わせて行います。
  • 腰椎に不安定性(骨がぐらぐら動く)がある場合、固定術を検討します。多椎間の固定術については大学病院や専門病院での治療をお勧めします。

難治性疼痛の手術について教えてください。

  • 難治性疼痛の手術は機能神経外科が最も得意とする領域の一つであり、SCS(脊髄刺激療法)、DREZotomy、Myelotomy、MCS(運動野刺激療法)などの様々な手術があります。なお三叉神経痛には微小血管減圧術のほか、ガンマナイフやサイバーナイフなどの放射線療法も治療オプションとなります(当院では行っていません)。疼痛の性状などに応じて最適な手術法を選択します。

DREZotomy(脊髄後根進入部遮断術)について教えてください。

  • DREZotomy(ドレゾトミー)は聞きなれない手術名ですが、顕微鏡下で脊髄の後根進入部を選択的に遮断することで難治性の疼痛、痙縮を改善する手術です。脊髄損傷後や癌性の疼痛に効果があります。
  • DREZotomyのDREZはdorsal root entry zoneの略語で、痛みの信号を運ぶ神経が集まる部位です。この DREZを選択的に切断するのがDREZotomyで、最大倍率まで拡大した顕微鏡下で神経モニタリングを行いつつ慎重に操作します。この手技は1970年代に開発され、日本定位・機能神経外科学会ガイドラインにも収載されている保険適応の手術です。
  • DREZotomyは痙縮の治療にも用いられますが、術後に筋緊張が低下するため運動機能が認められない患者様で良い適応となります。
  • 日本においてDREZotomyの手術が可能な病院は非常に限られていますが、当院での手術は可能ですのでご相談ください(浦崎ら2016)。

参考文献

浦崎永一郎,豊田啓介,藤岡裕士広範囲DREZotomyを施行した脊髄損傷後疼痛の1例.能的脳神経外科 55:1-8, 16年

Myelotomyについて教えてください。

  • Myelotomy(ミエロトミー)も聞きなれない手術名ですが、こちらは難治性の内臓痛(腹部の痛み)に対して行う治療法です。脊髄の中で内臓痛が走行する部位を選択的に切断します。腹部の癌などで麻薬でも効果のない疼痛の改善に効果があります。
  • 保険適応の治療法ですが、特殊治療のため適応については十分な話し合いが必要です。

SCS(脊髄刺激療法)について教えてください。

  • SCS(エスシーエス)は難治性疼痛に対する治療法で、概ね疼痛が半分程度に改善します。日本定位・機能神経外科学会ガイドラインで推奨される保険適応の手術です。
  • 脊髄の硬膜外腔という部位に細い電極を挿入し、腹部などに植え込んだ装置から弱い電気刺激を流すことで痛みを抑えます(図参照)。
  • 手術は局所麻酔下でトライアル手術を行い(1時間程度)、数日間の試験刺激で改善効果が確認できた患者様のみ刺激装置を本植え込みします。
  • SCSはいったん埋め込んだ後に完全に抜去することも可能です。
装置を埋めこんだ腹部のレントゲン

MCS(運動野刺激療法)について教えてください。

  • 日本で開発された中枢性の難治性疼痛に対して行われる治療法です。日本定位・機能神経外科学会ガイドラインに記載されています。脳の中の運動野という部位の硬膜上に刺激電極を留置し、微小な電気刺激を与えることで疼痛が約半分程度に改善します。改善効果は国内外の論文で立証されています。
  • MCSの欠点としては開頭術を要するため侵襲度が高くなること、MRIが撮影できなくなることが挙げられます。
  • マスターもMCSの手術に取り組んできましたが (藤岡ら2017,Fujioka et al. 2018)、残念ながら日本で使用できる埋め込み装置が販売中止となってしまいました。

参考文献

Hiroshi Fujioka,Eiichirou Urasaki,Akifumi Izumihara,Katsuhiro Yamashita.Epidural Motor Cortex Stimulation for Intractable Leg Pain.Clinical Neurophysiology 129(3):636-637,2018.
藤岡裕士,泉原昭文,浦崎永一郎,原昌司,空田剛彦,村龍二,松尾秀徳,山下勝弘脳卒中後の治療介入時期に着目した運動野刺激療法の上肢麻痺改善効果: A Feasibility and Safety Study.本臨床神経生理学会誌 45(1):1-9,2017年
電極を埋め込んだ頭部のレントゲン

LP/VPシャント術について教えてください。

  • 水頭症の治療法はLPシャント術とVPシャント術の2通りあります(図参照)。なおVAシャント術という手術もありますが、頻度としては稀です。
  • 「LPシャント術」の特徴は腰椎と腹部の手術で済む点にあります。すなわち腰から針を刺して髄腔内にカテーテルを留置し腹部に余分な髄液を流すという手術です。ただし脊柱管狭窄症などカテーテル留置が困難な場合は手術対象外となります(脊柱管狭窄症の手術を行えば可能となります)。
  • 「VPシャント術」は頭に小さな穴を開けてカテーテルを脳室内に留置し腹部に余分な髄液を流します。LPシャント術と比べて侵襲度は少し高くなりますが髄液は流れやすくなります。LP、VPシャント術とも一長一短ありますので、患者さんと相談のうえ最適なシャント術を選択します。手術時間は1-2時間程度です。
頭部と腰椎のMRI画像

バクロフェンポンプ療法について教えてください。

  • 重度の痙縮に対して行う治療法で、日本定位・機能神経外科学会ガイドラインで推奨される保険適応の手術です。腹部にバクロフェンという薬剤の入ったポンプを埋め込み、脊髄の髄腔内にカテーテルを留置します(画像参照)。
  • バクロフェンを持続的に投与するため、ポンプ内の薬液は3ヵ月に1回程度、外来で補充する必要があります。補充は腹部の皮膚の上から針を刺して行います。
  • マスターは長年バクロフェンポンプ療法に取り組んできました(藤岡ら2018年)。当院での手術、薬液補充とも対応可能です。

参考文献

藤岡裕士,浦崎永一郎,宮城靖,松尾秀徳,山下勝弘ITB療法による認知機能障害の改善効果について:長期フォローアップ.機能的脳神経外科:57, 2018年
装置を埋めこんだ腹部のレントゲン

ボトックス治療について教えてください。

  • ボトックス治療は筋肉注射による痙縮(痙縮)の治療法です。10-12週で効果がなくなりますので、定期的に注射を行う必要があります。
  • ボトックス注射にリハビリを併用すると効果的です。当院では入院リハビリ、外来リハビリも可能です。
  • ボトックスは保険適応ですが、高額なため費用的な相談が必要となります。ご希望があればマスターにご相談ください。

DBS(脳深部電気刺激療法)について教えてください。

  • DBS(ディービーエス)は脳の深部にある神経核に細い電極を挿入し、電気刺激により神経回路の活動を調整する治療法です(下図参照)。パーキンソン病やジストニアなどの不随意運動の抑制に効果が認められており、保険適応となっています。
  • DBSの手術は局所麻酔で行うことが多いのですが、これはテスト刺激を繰り返し、患者様と効果や副作用を確認しながら電極の挿入位置を決定するためです。希望があれば全身麻酔でも行えます。(電極ではなく)刺激装置の植え込みは局所麻酔、全身麻酔のどちらでも実施可能です。
  • マスターもDBSの治療に携わってきましたが (Fujioka et al. 2020)、当院ではDBSの手術は行っていません。このため初回埋め込み時は他院へ紹介となりますが、刺激の調整や刺激装置の交換手術は当院でも対応可能です。
  • なおDBS以外に集積超音波(FUS)、デュオドーパがあります。またiPS細胞移植の治験も始まっています。興味のある方はご相談ください。
  • 下の図はDBSの手術例です。パーキンソン病の症状改善を目的として両側の視床下核(STN)に電極を留置しています。

参考文献

Hiroshi Fujioka, Takenori Uozumi, Yasushi Miyagi, Eiichirou Urasaki. Off-period Status Dystonicus in Parkinson's Disease Treated with Deep Brain Stimulation: A Case Report. Neurology and Clinical Neuroscience 8:72-73, 2020.
電極を埋め込んだ頭部のMRI画像

SNM(仙骨刺激療法)について教えてください。

  • SNMは頻尿を改善する治療法です。泌尿器科と脳神経外科が共同で治療します。
  • 手術の適応は泌尿器科の先生が判断されます。詳しくは当院の泌尿器科の先生に相談してみてください。

脳卒中の手術はできるの?

  • 脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など)の治療は緊急性が要求されるため、24時間いつでも手術が行える体制が必要となります。残念ながら当科ではこの体制が整っておらず、緊急手術・血管内治療はお受けできません。
  • 原則として近隣の病院をご紹介させていただきますが、ある程度の時間的余裕がある場合は当院でも脳卒中に対する開頭術は可能です(画像参照)。
  • 術後のリハビリや痛みのケアについては当科で対応いたします。
開頭術の様子

神経外傷(頭部外傷、脊髄損傷)の手術について教えてください。

  • 頭部外傷の手術は重症例に対し緊急で行われることが多く、基本的に他院に紹介となります。重症頭部外傷の代表例である急性硬膜下血種は死亡率が高く、緊急で開頭術を行います。大きな開頭のうえ血種(ゼリー状)を除去します(写真)。頭部外傷による脳挫傷などで頭蓋内圧が亢進している場合、脳室内にセンサーを留置し髄液により脳圧をコントロールします(下写真)。
  • 慢性硬膜下血種は高齢の方に多い病気で、多くは頭部を打撲することで生じますが、原因不明のこともあります。穿頭術は頭蓋骨に小さな穴を開けて行う局所麻酔の手術で手術時間は1時間程度です。慢性硬膜下血種は再発が比較的多いのですが、高齢者では穿頭術自体が負担となります。このため再発を繰り返す患者様にはリザーバーを留置のうえ、頭皮から注射針で血種を除去できるようにすることもあります。
  • 脊髄損傷は高齢者で多くなっています。当院での緊急手術は困難ですが、Halo vestなどの外固定術、待機的な除圧固定術であれば対応が可能です。緊急性が高い場合や脊椎に不安定性がある場合は大学病院や総合病院での治療となります。

脳腫瘍・脊髄腫瘍の手術について教えてください

  • 脳腫瘍や脊髄腫瘍の手術はナビゲーションシステム、術中CT/MRI、5-ALA 術中蛍光診断などの高度な医療機器を用いるほか、術後の放射線・化学療法を要することも多く、スタッフの充実した大学病院や大型総合病院で行われることが多くなっています。
  • 高齢者の脳腫瘍では髄膜腫、転移性脳腫瘍、悪性膠芽腫、下垂体線種などが代表的ですが、当院で扱う手術は転移性脳腫瘍に限られます(下写真)。また上記理由により転移性脳腫瘍の場合も大学病院や総合病院での治療をお勧めしています。